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イギリスで出会った歩く文化

2025年5月、私たちはMountain Kingの創業者であるSimon Kingファミリーに会いに行くことにした。マウンテンキングの真髄をより理解するために、彼らの生の声と想い、そしてイギリスのハイキング・トレイルランニングカルチャーをこの目で見て、この耳で聞いて感じる必要があると思ったからだ。

日本でもっと認知を広げるためにも、まずは自分自身がこのブランドを深く理解しなければならない。各社から軽量なポールは数多く出ていて、選択肢は少なくない。そのなかでMountainKingならではの魅力とは何か。どこに価値があるのか。今の時代、選ばれる理由は“機能”だけじゃない。そこに込められた思いや、背景にあるストーリー、受け継がれてきた哲学こそが、付加価値になる。

イギリスはユーロ圏ではなく、通貨はポンド。物価は高いが、得られるものはすべて得たい。この目で見られるものがあるなら見に行く。私しかできないことがあるなら、何かを犠牲にしてでもやるべきではないか。そうして、旅のはじまりが決まった。Simonを訪ねる前に、ひとりイギリスへ降り立った。

広がる丘陵、重なるピーク

向かったのは、イングランド北部にある「ヨークシャーデイルズ国立公園」。石灰岩の台地と丘陵地帯、緑豊かな牧草地が織りなすこの地域は、イギリスを代表する美しい田園風景のひとつだ。公園内には無数のフットパスが走り、ハイカーやランナーたちが週末ごとに集う。なだらかな丘陵、石垣に囲まれた牧草地、放牧される羊たちの群れ──すべてが「これぞイギリス」と言いたくなるような風景だ。

ヨークシャーデイルズの魅力は、その地形の多様性と広大さにある。地域全体が石灰岩で形成され、独特の地形と景観を作り出している。特に広い牧草地、かと思いきやダイナミックな断崖、草原に並ぶ石垣、石造りの納屋など、歩くたびに視界が切り替わるような変化がある。

この旅で挑戦したのは「ヨークシャー・スリーピークス・チャレンジ(Three Peaks Challenge)」。ペニゲント(694m)、ワーンサイド(736m)、イングルバラ(723m)という3つのピークを一日でめぐる約40kmのループコースだ。

このコースの大きな特徴は、なだらかな傾斜が長く続く広大な裾野と、ピーク直前に突然現れる急峻な石段。頂上付近ではイングランドらしい石垣が城壁のように連なり、まるで物語の世界を歩いているような感覚になる。道中は放牧地を通過するたびにゲートを開け閉めしながら進む。標高を上げるとはるか遠くまで見渡せる景色が広がっていた。

トレイルランナーとしては、この裾野の緩やかな傾斜がリズムを作るのにちょうどよく、気持ちよく走れる。一方で、ピークの前後には手をついて登るような岩場もあり、歩く・走る・登るのバランスが問われる。長い距離だが、単調にならない変化に富んだコースだ。

道具と共に、旅する

今回の挑戦では、MountainKingの「TRAIL BLAZE SKYRUNNER CARBON」を使用した。ポール自体がとても軽くコンパクトで、旅のあいだもザックの中に入れたり、サイドポケットに差して持ち歩きやすい。 海外のハイキングでは、道具の不調が命取りになることもある。その点、カーボン素材とアルミ接続部の組み合わせであるこのモデルの安定感は心強い。海外遠征において「替えがきかない」ギアは重要だ。その点でこのモデルの軽量化かつ丈夫であるという安心感は大きな価値だと感じた。もう9年ほど使っている。信頼できる装備があってこそ、旅に集中できる。今回はトレイルランニング的なスピードで進む区間よりも、長いアプローチやテンポ重視の場面で特に頼りになった。

イギリスのフィールドは決して標高が高いわけではないが、天候が変わりやすく、時には風が強く、時折足元もぬかるむ。その中でもポールを使うことで、リズムと安定を確保できるのは重要だろう。

このルートの素晴らしさは、単なる「チャレンジ」や「レース」ではなく、地域の文化に根ざした週末の過ごし方として機能している点にもある。犬と一緒に歩く家族、話しながら歩くシニアグループ、走っているローカルランナー。すれ違うたびに笑顔と挨拶が交わされていた。

歩く文化が根付く理由

イギリスでは、歩くことが特別なアクティビティではなく、日常生活の一部として存在している。週末になるとフットパスに人が集まり、家族や友人と過ごす時間として自然の中を歩く。歩くことが、ただの移動手段ではなく、人生のリズムそのものになっている。

Three Peaks Challengeを歩いて感じたのは、イギリスという国において「歩く」ことが特別なアクティビティではないということ。運動のため、観光のためという枠を超えて、歩くことが人々の生活のなかに自然と組み込まれている。

その背景にあるのが、イギリス独特の「フットパス」文化だ。フットパスの文化には長い歴史がある。もともとは中世の時代、教会や市場に通うための生活路として発展したものだ。やがて工業化や農地改革によって土地の囲い込み(エンクロージャー)が進み、多くの通路が失われていったが、19世紀には市民運動によって再び歩く権利が主張されるようになる。そして1949年、国会によって「国定公園およびアクセス法」が制定され、フットパスが公共の財産として認められるようになった。誰もが自由に歩くことのできる権利が保障されている。

フットパスは、もともと地域の人々が生活のなかで使っていた歩行者専用の道。これらの道は土地所有者の許可を得て、誰もが自由に歩くことができるパブリックアクセスとして保護されているのだ。登山道やハイキングコースとは違い、町と町を結んだり、農場を抜けたりと、暮らしに密接に関わっているのが特徴だ。

歩く権利。

そして、その暮らしの延長線上に、MountainKingのようなブランドがある。日常的に歩くという文化が根付いた国だからこそ、優れたトレッキングポールブランドが育まれてきた。軽量なポールは尖って見えるが、もとを辿れば特別な装備ではなく、生活に寄り添う「歩く」道具だ。実直に、使う人の視点からものづくりを続けてきたブランドだからこそ、長く続いているのだと感じた。この旅で得た実感を、日本でも少しずつ伝えていけたらと思う。山を走る人も、ハイキングを楽しむ人も、きっとこの文化に共感してくれるはずだ。

次回は、イギリスが誇る湖水地方で開催されたOMM LITEとトレイルランレースのレポートをお届けします。

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